幕僚総長の作戦参謀監察計画
彼は非常に美しいと思う。あの深い色の瞳気だるげな表情青の制服からのぞく白い肌ふと見せる花の綻ぶかの如き笑顔ふと凛と伸ばされる背筋、もうとにかくその瞳が顔が髪が体が仕草が、すべてがすべて僕を虜にしてやまないのだ。
僕はけれど悲しいかな彼をその美しい肢体ごと四六時中見つめていることなどできない身分であり、しかも彼は僕がいくら好きだと言っても振り向こうとはせず、末には僕が彼に愛を告げるのは習慣のようなものになってしまってもう何も進展することがないのだ。
だから作戦参謀室のカメラを監視することにした。犯罪だろうとなんだろうと構うものかあんなに白い肌をさらけ出しているのが悪いのだしこれは彼のためにもなる、いつ彼に魅了されてその肌に吸いつく輩が現れるとも限らないのだからというか僕が吸いつきたい! というわけである
仕組みは単純、カメラ映像の転送先を映像保管サーバと僕の電脳にすればいい。
僕は努力した。まず自分の攻性防壁を大いに強化し長門さんの攻撃に備え警備システムを慎重に把握し穴を作成するプログラムを編み出し彼のカメラにつながるコンソールを見つけてコードを取得しそれでもってシステムに介入ネットワークのポート設定を改竄し転送設定を変更。視覚および音声情報を自らの電脳でとらえることに成功した。
そして設定を変更し、翌日の電源切り替え時より作戦参謀室とのリンクを開いて情報取得できるようにした。
その晩は眠れなかった。翌日が待ち遠しかった。彼のあの肌も瞳も手も足もそれこそ髪の毛一本まで自分はずっと見ていられるのだと思うとたまらなかった。それを想像したら非常に興奮したけれどまあなんというか一時間ぐらいしたら眠れた。一次官の間に何をしたかは推測してほしい。僕だってそれを臆面もなく言えるほど非常識でもないのだ。
そして運命の日。ぼくはシステムに軽くメンテナンスが入り、リンクが開くのを心待ちにしていた。挙動が不審になってしまったのか彼に変な顔で見られたがそれはそれで綺麗だったので良いかなと思う。
3,2,1、と高鳴る胸を押さえて数える。ああ、彼の職務中の姿があのうなじや唇や瞳の映像が僕のものになるのだ!
そしていよいよリンクが開き、僕にその情報が流入する。別系統で処理するので職務には支障をきたさない。ああなんて便利なんだ電脳、感謝します!
僕は喜び勇んでそれを見た。そして絶句した。
映像はカラー画像だった。
そして質が悪かった。人の判別が出来る最小限の画質で他は荒かった。当然彼のあの肌あの瞳あの(以下略)の美しさなど見れるはずもなく僕はあえなく諦めた。参謀室のセキュリティの厳しさは並みでなく彼をより詳しく見つめるための別にカメラを設置しようもなく、この計画はあえなく頓挫したのだった。
「……というデータをだな昨日お前の頭に見つけたんだがどう弁解するつもりだこの野郎」
「すいませんでした一時の気の迷いですどうか捨てないでください愛しています」
プライドの一欠片もないなお前、と言いながら彼はため息をつく。
「お前なあ。そんな真似するから長門と俺に電脳探られたりするんだぞ? 全く、なんで俺もこんなやつが良いんだかなあ」
それを僕に聞かないでほしいと土下座体制のまま思う。僕だってどうして彼と仕事でなく私生活で有線をつなぎ合わせることが出来て、今まさに二人の朝を迎えているだなんていう関係になれたのか皆目見当が付いていないのだ。ただ分かっているのは彼が長門さんに依頼されて渋々僕の電脳を探ったときに僕の彼への思いのたけが詰まったファイルやフォルダを見てもひかずにそれを受け止めて好きだと言ってくれた事だけだ。
「あのファイルに何ぞ機密事項でもまぎれてないかチェックかけてたらこれだ。珍しく鍵付きフォルダとか何様だよ。後いい加減パスワードを俺の名前にするのはやめろ」
「はい、そのようにします」
「…そうかい」
「ええ」
だからちょっと顔を上げさせてくれないだろうか、せっかくの休みの朝のベッドの上であるのだし僕は彼の顔を、彼を見たい。そう思っていると彼の滑らかな手が僕の顎の下に滑り込んできて僕は震えてしまう。肌も含めて彼の美しさは今も昔も変わらない。
くい、と顔を上に向けられてようやっと彼の瞳を視界にとらえると、それがぐんぐん近づいてきて唇に柔らかい感触が降る。
「なあ、古泉」
ずっといいだろ、本物の方が。
あの瞳を細めていつもの相好を崩してそう言われ、僕は思わず馬鹿みたいに何度もうなずいてうなずいて、好きです好きですと繰り返して自分の行ったことに多少照れている彼を再びベッドへ押し倒してしまったのだった。
END
↓反転で後書きです。読んでやろうという方はどうぞ。
→山於さん宅にて、無茶ぶりに答えました。
最後はラブラブで終わりでした。実は昔の捧げものにつながっていたりしますが多分短編で読めます。攻殻機動隊見てないと分かりづらくてすみません…。←
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write:2009/06/20