古泉が好きだと思いきって言ってみると帰ってきたのは歪んだ顔で、ああ俺はとんでもない失敗をやらかしたのだと気がついた。
「………」
ハルヒが出ていって暫くして、はあ、と古泉が進まない盤面を前にため息をついて立ち上がる。待ってくれと言っても待ってくれないのは知っているから急いでボードゲームを片づけて帰ろうとする古泉の後を追う。
「なあ古泉、今日お前の家行っていいか」
縋りつくような気分で声をかけると、古泉は俺を見下ろしてため息をつき、…いいですよ、と承諾する。
別に付き合ってもいいです。あなたは涼宮さんの鍵ですからね。大変魅力的なあなたを拒む術は僕にはないのですよ。
そう言われたときと同じ冷たさがその視線に込められているようで、それでも俺は何も言えない。じゃあやめとくよ、なんて言わない。古泉がいいと言えばいいのだとそう思い込んでおくことにする。あの時それでもいいから付き合ってくれといったように。その後泣きながら縋りついて抱いてもらった時のように。
学校を後にして古泉のアパートに行く。壁が薄くて騒音が響くので困るんですけどねと言いながら古泉は俺のほうを振り向きもせずに外付けの階段を上がっていって、自分の部屋のドアを開けてこっちのほうを見る。俺が急いで入ると音を立てて扉が閉まった。その音に俺はびくりと体を竦ませる。古泉がまたため息をついた。
「あ、すまん、俺…」
「で? 何をして欲しいんですか?」
古泉がネクタイを解きながら俺を睥睨する。俺は急いで居間に駆け込んでカバンを置いて、台所に転がり込むように入って冷蔵庫の扉を開ける。中には肉と野菜とか俺が前に少し買っておいた調味料とかが入っていて、俺はまとまらない思考で必死に考えてから肉とドレッシングと野菜を取り出した。
肉を焼いてコショウ諸々を加えて焼き、皿に敷いた野菜の葉の上に置く。残ったものはドレッシングで和えて器に入れ、後は幸い保温されたままの米を茶碗に盛りつけて、居間の真ん中の四角い卓袱台に置く。
「あなた、料理はまあまあなんですよね」
そう言いながら古泉は向かいで淡々とおれの作ったものを消費してゆき、俺はそれをうつむいて窺いながら少し箸をつける。
「もう少し食べませんか。こちらも食欲が失せます」
「あ、うん」
無理やり口に詰め込むようにして頬張る。頑張って作ったのに味が薄いように感じて堪らなかった。
古泉が課題をするというので古泉が勉強机に向かっている間俺も卓袱台の隅で課題をすまし、夕食の後片付けをして風呂に入る。
シャワーを浴びて体を隅々までていねいに洗う。だって俺はこれから古泉にあれを強要するのだ、できるだけ汚れていないようにしなければ。
風呂から出て体をふいて、古泉の家に置いてある俺の寝巻を身に着け居間に戻ると、課題が終わったらしい古泉が俺がおきっぱなしにしていたノートを片づけていた。
「あ、ごめん」
「全く手がかかりますね。ごめんだのすまんばかり言うのもやめてもらえませんか。不愉快です」
「あ、…」
そのまま何も言えない俺を屈んだまま見上げてため息をつき、部屋の隅にあるベッドに俺の体を引きずって押し倒す。
「…どうせ僕はあなたに逆らえないんだ。もっと偉そうにしたっていいのに」
「そんなこと、俺は」
「…言い訳は煩いです」
苛々したように古泉が俺の寝間着の胸を肌蹴させてその大きな手で弄りだすので、俺は鼻にかかった嬌声を上げるしかない。
「ほんと、むかつくんですよ。そのびくびくした態度だとかその目だとか髪だとか。謝っていても本当に謝っていないでしょうあなた。だって僕にこんなことをさせるんだから」
上も下も弄られながらそんな言葉を聞く。だというのに俺ははしたなく嬌声をあげて反応して体を熱くしてしまう。
「僕を好きだとか言われて、僕がどんな気持ちだったかなんて貴方には分からないんでしょうね。わかってもらいたいとも思いませんが。
ほら、もうこんなはしたない」
俺の汚いものでぬれた手をちらつかせて古泉が、さあ僕の服を脱がしてくださいと言うので俺は起き上がってその服に手をかける。自分の体の熱さにせかされるように古泉のズボンを下げ、上着を脱がせてブレザーの下のYシャツのボタンも外したところでもういいですと古泉に再び押し倒されて下を指でほぐされて、熱い熱に貫かれて俺はまた一段と大きな声をあげてしまった。
「本当はこのアパートの隣にはだれも住んでいないんですよ。でも、ほんとうにね、むかつくんです。だってあなた」
いつまでたっても神様の鍵なんですから。
行為が終わった後、そう言って乱暴に口づけられて俺はまた謝りそうになってしまうけれど古泉がさっき煩いと言ったので何も言わず、ただ古泉の体の暖かさを感じていた。