「ああキョン君、お疲れ様です」
書類を渡すとその琥珀の瞳を細め、変態幕僚総長が笑いかけてきた。
誰のせいで俺がお疲れだと思っているんだこの変態。休暇とくれば朝から晩まで人の体をいじくり回して酷使するくせして。
「嫌だなあ。貴方だって楽しかったでしょう?」
「どうですかね」
流し目を向けてくる奴から目をそらして溜息をつく。それよりとっとと書類にサインをして俺を休ませろ。
すると奴は、サインしましたよ、とよりにもよって俺の耳元で囁き、ぺろりと耳を舐め上げる。
「…お前って奴は!」
「ふふ」
その微笑みに、細められた琥珀の瞳に、笑い声に、その貌に、背筋がぞくり、と震えた。やばい。これはやばい。
「…ありがとうございました! 失礼いたします!」
急いで書類をほぼ奪うようにして受け取り、総長執務室のドアを開けて外に飛び出すと、後ろから声が追ってくる。
「こちらにいらっしゃい」
ぴたり、と体が静止する。かつん、かつん、と聞き慣れた調子の音が追ってきて、緑の軍服の袖が俺の視界を塞ぐ。もう片方の手が手袋をはめたまま軍服の裾から入ってきて胸を撫でる。
「さあ、癒してあげますよ」
どこが癒しだ。俺は疲れるだけじゃないか。そう言ってみるけれど、体は動かない。それどころか上半身を撫で回されてぞくりと震える。あ、と声が出る。体をまかせてしまう。
「ふふ、良い子ですね…」
ああ、またか。また逆らえないのか。
その声を聞きながら俺はもろくも陥落した。
強引に横を向かされ、降ってくる奴のキスを受け入れながら、こいつは毒なのかもしれないと思う。
そして俺はその中毒で、逃れるすべを知らないのだ。
End.