Tear is not...

俺は泣いたことがない。
いとこにいじめられた時も、両親が離婚した時も、父親と最後に別れた時も、妹とけんかした時も。
男しか好きになれないみたいだと分かった時も、冷たい夜の町でキスを投げ合った時も、小学校、中学校と友達と別れた時も。
思い出ばかり増えてゆくけれど、俺は泣いたことがない。
誰の前でも一人きりでも、俺は泣いたことがない。

『もう別れよう』
好きだと言っていたのに、どうしてそれを信じて貰えないのだろうか。
『君は冷たい。それが身にしみてよく分かったよ』
そう言われても、俺は泣かない。なぜか涙は浮かんでこない。
『ほら、こんな時も君は泣かない。僕にはそれは、とても冷たい人の仕草に思えるんだ』
そうして今度の男も去っていった。いつもそう。俺はそう言ってふられる。それでも俺は泣かない。
だってほら、涙って、そういうものじゃないだろう?

「なあ、古泉」
そんな日の翌日、ハルヒが帰ってしまった後、ぽつんと二人、部室でオセロなんかしていていて、だからか俺は、うっかり言ってしまったのだ。
「俺って冷たい奴かな」
「え?」
「泣いたことがないんだ。昨日もふられたんだけど、泣かなかった」
「……そうですか」
古泉はそう答えたきり黙る。
静寂の中、白を置いて、黒を置く、白を置いて、黒を置く、その音がただ響く。
そして盤が黒で埋まり、俺の勝ちとなったところで、古泉は降参です、と告げておもむろに立ち上がり、わざわざ俺の隣にやってきて、俺の髪を撫でる。
それがなぜだか心地よくて、俺は目を閉じる。
「あなたは優しい人だと思いますよ」
なんで。目を閉じたまま問いかけると、わずかに考え込むような気配がして、
「…そうですね、多分、涙というのは、悲しすぎるんです。
 涙は真珠じゃないのだから、綺麗なだけじゃ無くって、寂しいだけじゃなくって、悲しすぎるんですよ…」
古泉の声が俺に響く。それは全身に染み渡って、なぜか、…なぜか、泣きそうになった。
ああそうか、と俺は思う。
俺は本当の恋をしていなかったのだ。今まで、本当の恋人というものに出会ったことがなかった、だから。
瞳を開くと、世界がさっきより色づいたように感じる。
ほほえむ古泉の顔が、とてもとても愛しくて。
俺はなんだか、泣きたいのだか笑いたいのだか、よく分からない気分になった。

多分このまま、日々をこいつと過ごしてゆけば、きっと俺は泣いたりするんじゃないか。
そう感じてしまって、思わず涙が出そうになった。


END

後書きです。読んでやろうという方は→から←までを反転でどうぞ。
飾りじゃないのよ涙は HA HAN 〜♪
……ごめんなさい、歌詞パロです。
なんか短いし…これでいいだろうか…。
あの絵チャットに参加していらっしゃった方のみ、お持ち帰りその他自由です(持ち帰って頂けるとむしろ嬉しいです)。どうぞ、煮るなり焼くなりして下さいませ。
読了ありがとうございました。