どうにもこうにも日本の夏というのは暑い。汗は出るわ喉は乾くわ蒸し暑いわでいいことがない。ついでに俺の場合は古泉が異様にべたべたしてくるので更に暑い。忌々しいことである。
だがしかしそんな夏でも休みに入ると宿題というものは出るもので、俺はやむを得ず古泉の家で数学を教えてもらっているのだった。
機関からの支給品だとかいうエアコンで地球に悪い快適な空気を作り出して味わいつつ、途中で投げ出して俺の理解を待つという確率が高いもののなんだかんだいって的確にポイントを押さえてくれる古泉のお陰で俺は数学の課題を一区切りさせることができたのだが、次にやってきたのは一時の課題でなく常の難題である。
「ねえキョン君。あなた、涼宮さんのことをどう思っているんです?」
「どうも思ってねえよ。あのな古泉、そういう詮索はどうかと思うぞ。
確かに俺だって男だからそういう目であいつを見たことが無いと言えば嘘になるだろうがな、恋愛だとかは考えてねえよ。ついでにそういう意味で好きな奴もいねえ」
大体お前がいつもくっついてきやがるから俺は、と言いかけたところで古泉がジュースを入れたグラスを俺の前に置き、俺の隣に座るかと思いきや若干後ろに座り込み、どうしたんだと思ったその時―――
古泉が、俺の首をべろん、と舐めた。
とたんに悪寒とかなんかいろんなものが襲ってきて俺は思わず古泉から離れようとするが時すでに遅し、俺の腰は古泉の腕にがっちり掴まれていて動けない。
おいこら離せ古泉。俺の腕はいまだ嘗て無いほどに鳥の表皮に近くなっているんだ。これ以上俺の心臓が冷えるようなことをするんじゃない。
「…汗をおかきになっていましたから、というのは駄目ですよね」
なんだそれ。よっぽど塩分が不足していたんでもあるまいし気持ち悪いだけだろうそれ。ついでに汗かいてるところよりお前に舐められたところのほうがエアコンにさらされて非常に涼しいことになってるんだがな。
「…味が」
何? 味? 味がどうした、言っとくが今日は朝からカップめんを食べてきたんだ、さぞ体に悪い味がすると思うぞ古泉よ。
「違います」
――嘘の味が、するんです。
古泉の顔が見えない。肩に乗せられた古泉の頭を覗き込むすべを俺は知らない。
…確かに俺は嘘をついてる。だが違う。違うんだよ古泉。
「…なあ古泉」
「なんですか」
「俺はな、ハルヒとキスしたことあるよ。それなりに良かったと思う」
「…はは…そうですか」
「でもな、俺はもう一度そうしようとは思っていないんだ。少なくとも今は。好きな相手が別にいるんだ。
どうにもこうにも馬鹿なやつでな。不安なんだかしらねえが、人の言葉を信じねえ。いつもいつもそういうことを言われてるのにどうして俺がここにいるかも知らない」
びくり、と古泉が震える。よしよし、自分が馬鹿だという自覚はあるみたいだな。偉い偉い。
「…キョン君」
「なんだ」
「あの、首もういっぺん舐めてもいいですか…」
まあ駄目とは言わんぞ古泉。だがその前に色々段階を踏めという話なわけだ。
だからまあ手始めに、その顔をあげて俺を抱きしめて、…あとは察しろ。いくら馬鹿なお前でも、それぐらいはできるだろう?
End.