Candy Black

 じゃあこの飴をあげます。泣き止んで下さい。
 そう告げてオレンジ色の飴玉を渡したのは、遠い昔の事だった。
 焦げ茶の紙に黒い瞳の少年を抱え上げると、彼は素直に飴玉を口に含んで転がして、どうやら美味だったらしく、彼の涙が止まる。
 嬉しくて笑いかけると、彼もきょとんとした顔の後で、綺麗な笑顔を見せてくれたのを覚えている。

 *

 風呂上がりの彼の項は赤く染まって、僕の欲望は決まって抑えきれなくなる。それが仕事で呼び出されて嫌々ながら出席したパーティーの帰りなら尚更だ。
 そのピンク色の肌をもっと火照らせたくなって、つい僕は酷いことをしてしまう。


 おかえりなさい、と言いかけた彼の腕を掴んで床に押し倒し、両腕を掴んで唇を塞ぎ、存分に彼の舌を味わう。柔らかで弾力あるそれを味わった後に名残を惜しみながら唇を離し、服の裾から手を入れて胸を弄ると、ア、と高い声が上がった。
 古泉、と目を潤ませて微かに首を振る彼が愛おしくて憎らしくて、胸から腹をなで下ろしながら項に口づけを落とすと彼の体が跳ね、その体が紅潮してゆくのが分かって少し満足する。
 僕が何か弄る度に高い声を上げながら体を震わせる彼を見下ろしながら彼の寝間着の上を捲りあげると、いやらしい色をした突起が目に入り、同時に股に割り込ませた膝からの感触に頬が緩んだ。
「早いですね。ここ、こんなになってますよ…?」
 耳を舐めて囁いてやると、いや、と小さく叫んでそこを両手で隠そうとする彼の腕をまとめて掴みあげる。
 離してお願い、という彼の言葉に笑顔を返して空いた方の手でそこをなで上げると、再び甘い嬌声が上がる。
 涎を口の端から垂らして古泉、古泉と呼びかける彼の頬を撫でてやろうとして両手ともふさがっているのに気付き、着ていたネクタイを外してその両手を縛り上げようと下の手を離すと微かに腰が揺れた。彼を始めて抱いた日から、ずっと快感を教え込んできた甲斐があったというものだ。
 両手を押さえ込んでネクタイで縛り上げると、彼が体を跳ねさせてもがくので下を弄って胸を抓る。早くも彼の先端は濡れ始めていた。
 ふと思いついて手を離し、彼が出てきた部屋へ入る。制服がぶら下がっていた。予想通り、ネクタイもそこにある。
 それをハンガーから引き抜いて廊下に戻ると、彼が不思議そうにこちらを見ながら、立ちあがろうとしたところだった。
 その肌から赤みが引いているような気がしてぐらりと目眩がする。こいずみ、と膝立ちで見上げてきた彼を抱え上げてリビングへ運び、ソファーにのせて彼の両手を縛るネクタイをもっときつく縛って下を軽く扱くと、彼が小さく声を上げた。
「今日は少し、趣向を変えてみようかと思うんですよ、キョン君」
 趣向、と彼がぼんやりとしかし潤んだ瞳でオウム返しに呟く。
 だが僕が彼のネクタイでその瞳に目隠しをしようとすると、ひっ、と叫んで顔を逸らそうとするのが嫌で、強引に片手でその顔をこちらに向かせて、潤んだまなじりに口づけを落としてネクタイを被せ、縛ってすぐ下を扱き上げる。さっきよりも激しく彼の腰が揺れて、なんだかとても嬉しくなった。
 上下に更に扱き上げるとすぐ達する。やはり視覚を隠すと他が敏感になるというのは嘘ではないらしいと何となく感心しながら手のひらについた彼の体液を舐めあげると、その水音を聞いてか、彼がまた身をよじった。
 それで大きくなった僕自身がスーツを押している感触に気がつく。もうそろそろ僕も限界だ。ジッパーを下におろす音がリビングに響いて彼が身を震わせる。
 もうすぐあげますよ、と囁いて彼の腰が揺れたのを見逃さず後ろに彼のものと僕の唾液で濡れた指を入れると、だめ、と高い声を上げて腰を上にやる。前を握ってやると僕の背中に手を回し、身をよじらせては、と熱い息を吐いた。
 指を一本、二本、三本と増やす度に彼の嬌声は大きくなってゆく。その唇の端から涎が溢れてとても卑猥だ。
 それに堪らなくなって、僕のモノをほぐすのもそこそこに突き立てると、彼の腰が跳ねて背中に微かな痛みが走る。
「あ、あ、古泉、古泉、いや、ああ…」
「いや、ねぇ」
 ぐん、と腰をグラインドさせて叩きつけると彼の腰が揺れ出す。彼の体は非常に正直だ。だってそういう風に僕が抱き込んだのだから。
 愛しい愛しい養い子。だらしない僕を叱りつけながらもふと笑顔を見せる、何処か無防備で美しい彼に耐えられず抱いた。その体は甘くて、僕が一度目に何度も貫いて教え込んだ快感でもって、僕から逃げようとした彼を抱いたのが二度目。それからそそられるままに彼を弄り貫いてきた。
 ネクタイに彼の涙がにじみ出すのを眺めながら、腰を叩きつけて彼のいいところを抉った拍子に、彼の嬌声に合わせるように、パーティーに出席しなければならなかったのを謝りながら担当がくれたキャンディーが転がり落ちる。
 ちょうどいい、とその中からオレンジ味のキャンディーを取り出し、ぺろりと一舐めしてオレンジ味を味わってから、二度目に抱いた時のように、彼に口移しでキャンディーを与える。
 あの時と同じように、広がるばかりだった彼の涙のシミがそれ以上大きくならないのを見て嬉しくなる。彼は僕のものだと、そう示しているようで。
 僕の愛しい愛しい彼。もう僕から逃げられない。彼は僕のものだ。
 彼のイイところを抉り、貫き、僕と彼の熱が高まったところでネクタイをとくと、欲望に染まった瞳が僕を見つめる。それが堪らなく、いい。
 古泉、と大きく叫んで果てる彼の中に僕も熱をはき出して、熱い中から自身を出し、彼の唇へ口づける。
 僕は知っている。彼が本当に抵抗していないこと、僕が何日か何もしなければ、熱い目で僕を見つめることを。最中に僕が愛していると囁けば、よりいっそう僕を求めて啼くことを。
 僕らの過ごしてきた日々が、その思いが、たとえ他人には理解できないものであっても、ずっと僕らを結びつけることを。
 快楽以外のモノでも縛って、僕は彼を捕らえるのだ。

 彼の口の中で飴はとうに溶けてしまっていたけれど、甘い味が舌に広がって、それは飴の味なのか、それとも彼の味なのか、僕には全く分からなかった。


END

後書きです。読んでやろうという方は→から←までを反転でどうぞ。
rei様宅にて書いたもの。…だというのに紅月様宅で書いたものと繋がっています(汗)。だって、ネクタイって見た時に浮かんだのがこの二人だったんだもの…!
 あの絵茶にいらっしゃった方々のみお持ち帰りその他自由。ひっそりと捧げますです。


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write:2009/03/19